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醤油

醤油の選び方|種類・製法・原料・等級で比較

濃口や淡口、特選、減塩——醤油のラベルには、味と品質のヒントが詰まっています。JAS規格や食品成分表などの一次情報をもとに、種類・製法・塩分・用途の見方を整理し、あなたに合う一本へと案内します。

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醤油の選び方|種類・製法・原料・等級で比較
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目次
  1. 01 醤油の5つの種類 — JAS分類で読み解く
  2. 02 等級と「特選・超特選」 — 数字で品質を見る
  3. 03 製法 — 本醸造・混合醸造・混合の違い
  4. 04 原料 — 丸大豆と脱脂加工大豆、小麦、国産の実情
  5. 05 発酵の科学 — うま味・香り・色が生まれる仕組み
  6. 06 塩分と減塩 — 数値で押さえる
  7. 07 用途別の使い分けと地域性
  8. 08 保存と鮮度 — 開栓後は酸化との競争
  9. 09 価格帯の見方
  10. 10 用途別の早見まとめ

「濃口」「特選」「本醸造」「減塩」——醤油のラベルに並ぶ言葉は、味と品質を読み解くための手がかりです。意味さえ分かってしまえば、売り場で迷うことはなくなります。このガイドでは、JAS規格や日本食品標準成分表、公正競争規約といった一次情報に、発酵科学と健康疫学の知見を重ねながら、種類・等級・製法・原料・塩分・用途・保存・価格までを順にたどります。

まず結論:迷ったらまずこいくちの本醸造を1本。国内流通の8割超を占める万能型で、調理にも卓上にも使えます。用途がはっきりしてきたら、淡口やたまりを買い足すのがおすすめです。

醤油の5つの種類 — JAS分類で読み解く

日本農林規格(JAS 1703)は、しょうゆを原料の配合と製造工程の違いから5つの種類に分けています。流通量の8割以上を占めるのはこいくちで、残りの4種類は、それぞれ得意な料理をもつ用途特化型と考えるとわかりやすいでしょう。まずは全体像を、色と味の傾向でプロットした下の図でつかんでください。

醤油の種類マップ(色と味の傾向)

こいくちは、大豆にほぼ等量の麦を加えてつくる、最も一般的な醤油です。うま味・甘味・酸味・苦味をバランスよく備えているため、調理にも卓上にも使える万能型として広く親しまれています。うすくちは関西で生まれた色の淡い醤油で、製造の工程で色がつくのを抑え、素材の色や持ち味を生かします。だしで炊く含め煮や炊き合わせに向いています。たまりは主に中部地方でつくられ、大豆を主原料に少量の麦を加えて仕込みます。とろりとした濃厚なうま味と独特の香りが持ち味です。さいしこみは、仕込みに食塩水ではなく生揚げ(いったん搾った醤油)を使うことから「再仕込み」と呼ばれ、色も味も香りも濃厚で、「甘露しょうゆ」の別名でも知られます。しろは、少量の大豆に麦を主体として加えたもので、うすくちよりもさらに色を抑えた琥珀色をしています。味は淡白ながら甘味が強く、吸い物や茶碗蒸しに使われます。

種類 主な原料配合 味の傾向 主な用途 生産比率(2023・業界調べ)
こいくち 大豆+ほぼ等量の麦 濃い バランス型・万能 調理・卓上全般 84.9%
うすくち 大豆+ほぼ等量の麦(色を抑制) 淡い 塩味やや高め・繊細 炊き合わせ・含め煮 11.4%
たまり 大豆主体+少量の麦 極濃 濃厚・とろみ 刺身・照り焼き・佃煮 2.1%
さいしこみ 生揚げで再仕込み 極濃 濃厚・甘み 刺身・卓上つけかけ 0.9%
しろ 少量の大豆+麦主体 極淡 淡白・甘味強 吸い物・茶碗蒸し 0.7%

気になる種類の商品は、濃口(こいくち)淡口(うすくち)たまり再仕込み(さいしこみ)白(しろ)の絞り込みから、価格や単価とあわせて比較できます。

等級と「特選・超特選」 — 数字で品質を見る

読み方のコツ:等級は全窒素分(うま味の指標)で決まります。数字が大きいほどうま味が濃く、特級以上は本醸造方式に限られます

同じこいくちでも、瓶に「特級」「特選」「超特選」と書かれていることがあります。これは主に、うま味の指標である全窒素分(醤油に溶けた窒素化合物の量で、多いほどアミノ酸などのうま味成分が豊富)による格付けです。JASは種類ごとに特級・上級・標準の3等級を定め、色度・全窒素分・無塩可溶性固形分(塩分を除いたエキス分)の下限を規定しています。こいくちの場合、全窒素分の下限は次の図のように上がっていきます。

濃口の等級と全窒素分

種類 特級(全窒素分 g/100mL以上) 上級 標準
こいくち 1.50 1.35 1.20
うすくち 1.15 1.05 0.95
たまり 1.60 1.40 1.20
さいしこみ 1.65(混合醸造方式は2.00) 1.50 1.40
しろ 0.40以上0.80未満 0.40以上0.90未満 0.40以上0.90未満

しろだけは、色を淡く保つために全窒素分の上限が定められている点が特徴です。市場では特級が主流で、等級比率(2023年)は特級79.7%・上級17.6%・標準2.7%となっています。ただしJAS格付けの受検率は52%にとどまり、流通する醤油の約半分は、そもそも等級表示のない製品です。等級がないからといって品質が低いわけではなく、あくまで自主的な格付け制度だと理解しておいてください。

さらに上位の表示が「特選」と「超特選」です。特選は特級の基準値の1.1倍以上、超特選は1.2倍以上を満たしたものを指します。判定に使う成分は種類によって異なり、こいくち・たまり・さいしこみ(本醸造)は全窒素分で、うすくち・しろは無塩可溶性固形分で判定します。こいくちを例にとると、特級の1.50に対して、特選は1.65以上、超特選は1.80以上です。

製法 — 本醸造・混合醸造・混合の違い

ポイント:混合=低品質ではありません。違いはアミノ酸液を加えるかどうか、どの段階で加えるかだけ。九州の甘口醤油は、混合方式を積極的に選んだ食文化です。

ラベルには、種類名の後ろに括弧書きで製法が示されます。「しょうゆ(本醸造)」「しょうゆ(混合醸造)」「しょうゆ(混合)」の3つで、違いは「アミノ酸液(大豆などを分解してつくるうま味液)を加えるかどうか、加えるならどの段階か」にあります。次の図で流れを見比べてみましょう。

製法のちがい(アミノ酸液を加える段階)

本醸造は、麹を発酵・熟成させた「もろみ」を搾って得た液体調味料で、アミノ酸液などは加えません。混合醸造は、もろみの段階でアミノ酸液や酵素分解調味液を加え、いっしょに発酵・熟成させたものです。混合は、搾って液体になった後の本醸造品や生揚げに、アミノ酸液などを加えたものを指します。市場では本醸造が圧倒的で、製造方式別の生産比率(2023年)は本醸造が89.5%、混合が10.0%、混合醸造が0.5%です。

ここで気をつけたいのは、混合や混合醸造が「本醸造より質が低い」わけではない、という点です。九州や中国・四国で好まれる甘口醤油の多くは、熟成した醤油にアミノ酸液や甘味料をブレンドした混合方式で、その土地の食文化に根ざした積極的な選択です。製法は優劣ではなく、味の設計思想の違いととらえるのが正確でしょう。

ラベルの特定用語 — 天然醸造・手造り・長期熟成

製法にまつわる特定用語も知っておくと選びやすくなります。「天然醸造」は、本醸造であって、セルラーゼなどの酵素で醸造を促進しておらず、指定の食品添加物も使っていないものだけが表示できます。これはJAS規格本体ではなく、業界の公正競争規約(景品表示法にもとづく)の特定用語使用基準に定められています。「手造り」は、麹を麹蓋や筵で製麹して手入れを人手で行い、もろみの撹拌も手作業で行うといった条件をすべて満たした場合にだけ名乗れます。「長期熟成」や「長熟」は、本醸造でもろみの熟成期間が1年以上のものについて、醸造期間を併記して表示する用語です。

火入れと「生しょうゆ」

もうひとつ、火入れの有無による違いがあります。搾ったばかりの生揚げ醤油を加熱殺菌する工程が「火入れ」で、ふつう80〜85℃で10〜30分ほど加熱します。この加熱によって冴えた赤みが出て、火香(ひが)と呼ばれる焙煎香が加わります。いっぽう、火入れをせず、精密なろ過で微生物を除いたものが「生(なま)しょうゆ」です。生しょうゆは香りも味も穏やかですが、加熱すると火入れ品より香りが立つという特性をもっています。

原料 — 丸大豆と脱脂加工大豆、小麦、国産の実情

醤油の主原料は大豆・小麦・食塩の3つで、ここに種麹(麹菌)が加わります。大豆のたんぱく質は麹菌のプロテアーゼでアミノ酸に分解されてうま味となり、小麦のでんぷんはアミラーゼでブドウ糖に変わって甘味とコクを生みます。食塩は塩味を与えるだけでなく、雑菌の繁殖を抑えながら乳酸菌や酵母をゆるやかに働かせる、発酵の制御役でもあります。ちなみに、醤油1リットルをつくるのに、大豆と小麦をそれぞれ約180g、塩を約160g使います。

大豆には「丸大豆」と「脱脂加工大豆」の2種類があり、どちらが上ということではなく、狙う味の設計が違います。脱脂加工大豆は、醤油づくりに必要なたんぱく質を残し、あまり必要のない脂肪分をあらかじめ取り除いたものです。水を吸いやすく分解されやすいため、香りの立つキレのある強いうま味を、コストを抑えて効率よくつくれます。国内でつくられる醤油の約80%が、この脱脂加工大豆を使っています。いっぽう丸大豆は、大豆をそのまま使うため、長い熟成のあいだに油分がグリセリンとなって溶け込み、まろやかな風味と深いコクを生みます。

小麦は甘味と香りを担います。たまりが大豆を主原料に小麦をごくわずかしか使わないのに対し、しろは逆に小麦を主原料とする、対照的な構成です。この違いが、たまりの濃厚さと、しろの淡白な甘味という個性を生んでいます。

国産かどうかも気になるところでしょう。現在、醤油の主原料はほぼ輸入でまかなわれており、大豆はアメリカやブラジル、小麦はアメリカやカナダ、食塩はメキシコやオーストラリアなどから調達されています。大豆全体の自給率は近年7%前後で、国産大豆や国産小麦をうたう醤油は、それ自体が希少性のある選択肢だといえます。なお、たまりは小麦をほとんど使わないことから「グルテンフリー」の文脈で海外からも注目されていますが、すべてのたまりが小麦不使用というわけではありません。グルテンを避けたい方は、「小麦不使用」と明記された製品を選んでください。有機やオーガニックを求めるなら、有機JASマーク(原材料の95%以上が有機で、遺伝子組換え不使用など)が目印になります。

発酵の科学 — うま味・香り・色が生まれる仕組み

醤油の味と香りは、麹菌・乳酸菌・酵母という3種類の微生物の分業と、そのあとのメイラード反応(アミノ酸と糖が反応して褐色に変わる反応)の共同作業で生まれます。全体の流れを図で追ってみましょう。

発酵の流れ(3つの微生物と火入れ)

まず麹菌(Aspergillus oryzae/sojae)が、さまざまな加水分解酵素を分泌します。プロテアーゼが大豆のたんぱく質をアミノ酸やペプチドへ、アミラーゼが小麦のでんぷんをブドウ糖へと分解します。うま味の主役であるグルタミン酸は、たんぱく質の分解で直接遊離する経路と、いったんできたグルタミンをグルタミナーゼという酵素が変換する経路の、2つのルートで生まれます。次に、麹菌がつくったブドウ糖を栄養にして、耐塩性乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)が働きます。塩分18〜23%という高塩の環境でも生きられるこの乳酸菌が乳酸をつくってもろみを酸性化し、爽やかな酸味と深みを与えると同時に、続く酵母が働きやすい環境を整えます。そして耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)がアルコール発酵を行い、複雑な香りの土台をつくります。

醤油の甘くカラメルのような特徴香の鍵とされるのが、HEMFという成分です。研究では、この成分が、リボースとグリシンのメイラード反応に由来する部分と、酵母のアルコール発酵に由来する部分が結びついて生成されることが、安定同位体を用いて解明されています。加熱だけでも酵母だけでも十分には生まれず、両者の共同作業が必要だという点が興味深いところです。火入れをすると、コーヒーやローストを思わせるチオール香気(2-furanmethanethiolなど)が急増して香ばしさが増します。

醤油の褐色も、メイラード反応の産物です。アミノ酸のアミノ基と還元糖のカルボニル基が反応して、メラノイジンという高分子の褐色色素が生まれます。この褐変は熟成のあいだにも、火入れや調理の加熱でも進みます。醤油が空気に触れて色が濃くなるのも、同じ酸化・褐変の延長線上にある現象です。本醸造(こいくち)のもろみ熟成は約6〜8か月、たまりは約1年が一般的な目安とされ、この時間のなかで酵素分解と発酵、褐変が進んで、醤油特有の色・味・香りが完成していきます。

塩分と減塩 — 数値で押さえる

意外な事実:色の淡い「うすくち」のほうが、じつはこいくちより塩分が高い。淡いのは色であって、塩分ではありません。

うすくちは色や香りを抑えて素材を引き立てるために、食塩をこいくちより1割ほど多く使います。醤油は、日本人の食塩摂取源としても無視できない存在です。食塩摂取の約7割は調味料に由来し、実測研究では、**しょうゆ単独でナトリウム摂取量の約2割(19.6〜20.0%)**を占め、調味料のなかで最大の供給源とされています。種類ごとの食塩相当量を並べると、この違いがひと目でわかります。

種類別の食塩相当量(100gあたり)

種類 食塩相当量(100gあたり) ナトリウム(100gあたり)
うすくち 16.0 g 6300 mg
こいくち 14.5 g 5700 mg
しろ 14.2 g 5600 mg
たまり 13.0 g 5100 mg
さいしこみ 12.4 g 4900 mg
こいくち・減塩 8.3 g 3300 mg

日常の目安としては、大さじ1杯(15ml)のこいくち醤油の食塩相当量が約2.5gと覚えておくと計算しやすいでしょう。メーカーの減塩しょうゆなら大さじ1杯で約1.2gと、およそ半分に抑えられます。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が示す食塩相当量の目標量は、18歳以上で男性7.5g未満・女性6.5g未満、高血圧や慢性腎臓病の重症化予防では男女とも6.0g未満です。ところが令和5年の国民健康・栄養調査では、実際の摂取量は平均9.8g(男性10.7g・女性9.1g)で、目標との差はまだ大きいのが現状です。

「減塩」と表示できる基準

「減塩」を名乗るには基準があります。公正競争規約では、しょうゆ100g中の食塩量が9g以下で、かつ食品表示基準の低減表示要件を満たしたものだけが「減塩」と表示できます。ナトリウムの低減表示は原則として25%以上の低減が必要ですが、保存性や品質の維持が難しい食品として、しょうゆには20%(みそは15%)という緩和特例が設けられています。20%以上低減して食塩量が9gを超えるものは「うす塩」「あさ塩」「あま塩」、20%以上低減したものは「低塩」「塩分控えめ」と表示できます。減塩しょうゆは、イオン交換膜で塩分だけを抜く脱塩法や、濃くつくってから加水する希釈法でつくられます。最初から低塩で仕込まないのは、塩分が低いと雑菌が繁殖して発酵がうまくいかないためです。物足りなく感じるときは、濃厚な醤油を少量だけ使う、だしで割るといった方法も有効です。

食塩と健康の関係については、減塩によって血圧が下がることや、塩蔵食品と胃がんの関連が「可能性大」と国際的に評価されていることなどが報告されています。ただし、これらは疫学研究による集団レベルの知見であり、醤油そのものが特定の病気を引き起こす、あるいは防ぐと断定できるものではありません。過度に恐れる必要はありませんが、総量として塩分を管理する視点で使うのが賢明でしょう。

用途別の使い分けと地域性

醤油選びの実践的なコツは、料理との相性を「かけ・つけ」「煮る・炊く」「焼く・照り」の3つで整理することです。

刺身と醤油

刺身や卓上のつけ・かけには、うま味の濃い醤油が合います。白身魚には淡口や白醤油から使い始めると、素材の繊細さを損ないません。マグロのような赤身には、再仕込みや長期熟成のたまりといった濃厚な醤油が好相性です。卵かけごはんは、卵を活かすなら塩味主体で主張を抑えた淡口・白醤油、卵と一体の濃厚さを楽しむなら濃口・再仕込み・たまり、という2つの方向があります。

卵かけごはんとご飯

煮る・炊く料理では、素材の色を美しく残したい関西風の炊き合わせや含め煮に、淡口が欠かせません。だしで素材を煮ふくめ、色の淡いうすくちで仕上げるのが関西料理の定番です。焼く・照り料理では、たまりや再仕込みが加熱で美しい赤みと照りを出すため、照り焼きやかば焼きに向きます。吸い物や茶碗蒸し、だし巻き卵のように、仕上がりの色を抑えたいときは、白醤油や淡口が活躍します。ワインにたとえるなら、白ワインが合いそうな素材(ムニエル、白身、冷奴)には淡口・白醤油、赤ワインが合いそうな素材(脂の強い肉、味の濃い煮物、照り焼き)には再仕込み・たまり、と考えるとイメージしやすいでしょう。

地域でこんなに違う

こうした使い分けは、地域の食文化とも結びついています。関東は本醸造のこいくちが中心で、こいくちは江戸時代中期に千葉県の野田や銚子など、利根川水系で発達しました。関西はうすくちが広まった地域で、うすくちは兵庫県の龍野で生まれています。中部(愛知・三重・岐阜)は豆みそ文化を背景に、たまりと、小麦を主体とするしろを生み出しました。中国地方では、江戸時代に山口県の柳井地方でさいしこみが生まれ、やや甘い醤油が使われます。そして九州は甘口の混合しょうゆが主流で、南に行くほど甘みが強まります。この甘口文化の背景には、鎖国時代の長崎・出島を起点とした砂糖流通「シュガーロード」や、薩摩のサトウキビ栽培があり、高価な砂糖を使うことが最高のもてなしだった、という歴史があります。なお、九州で「さしみ醤油」や「たまり」と呼ばれるものは、甘みととろみをつけた加工品を指すことが多く、JAS上のたまりしょうゆ(大豆主体・長期熟成)とは別物である点は、覚えておくとよいでしょう。

保存と鮮度 — 開栓後は酸化との競争

保存の要点:醤油の敵は酸素と温度。開栓後は冷蔵庫で1か月を目安に使い切りましょう。卓上の醤油差しも冷蔵庫へ。

醤油は空気に触れると酸化・褐変が進んで色が濃くなり、同時に香りと味が落ちていきます。安全性に問題が出るわけではありませんが、風味は確実に劣化します。劣化の速度は温度が10℃上がるとおよそ2倍になるため、冷蔵庫での保管なら、室温に比べておよそ4分の1の速度に抑えられます。

開栓後に使い切る目安は、通常のボトルでおよそ1か月です。ヤマサ・ヒゲタ・正田といったメーカーが揃って、「冷蔵庫で1か月ほどで使い切る」ことを推奨しています。近年広がった二重構造の密封ボトルは、押すと醤油が出て内袋だけが縮み、空気が入らない仕組みで、開栓後も常温で90〜120日(製品による)鮮度を保てます。少人数の世帯で1リットルを1か月で使い切るのが難しいなら、密封ボトルの小容量品を選ぶか、500〜200mlほどの首の細いガラス瓶に小分けして、容器内の空気を減らすとよいでしょう。なお、表面に白いものが浮くことがありますが、これはカビではなく酵母の一種で、濾せば使えます。未開栓の賞味期限は容器によって差があり、こいくちのガラス瓶なら約2年、ペットボトルなら約1.5年が一つの目安です。

価格帯の見方

醤油の価格は、大手ブランドの1リットル品が実売200円台という水準から、蔵元の小容量品が100mlで500円超(1リットル換算で5000円超)という水準まで、容量あたりの単価で20倍規模の開きがあります。この差は、いくつかの要因から生まれます。

原料の面では、丸大豆か脱脂加工大豆か、国産原料か輸入原料か。製法の面では、大量生産のタンク仕込みか、蔵の個性が強く出る木桶仕込みか。味の設計の面では、仕込み水を減らしてうま味を濃くする(全窒素分を高める)ほど、原料も手間もかかります。さらに、熟成期間の長さや、再仕込みのように原料と時間を通常の約2倍かける製法も、価格に反映されます。歴史をたどれば、醤油は江戸時代には米より高価な高級品でしたが、1970年代以降の特売競争で相対的な価格が大きく下がった、という経緯があります。安い醤油が悪いわけではなく、日常使いには十分に機能します。いっぽうで、素材を引き立てる卓上の一滴にこだわるなら、蔵元の個性ある醤油を少量ずつ試す価値があります。価格を見るときは、「1リットルあたりいくらか」と「その醤油をどの用途に使うか」をセットで考えるのがおすすめです。

用途別の早見まとめ

最後に、目的から逆引きできるよう、用途別に整理しておきます。

目的・料理 おすすめの種類 理由
迷ったらまず1本 こいくち(濃口を見る 万能で、調理も卓上も対応できる
素材の色を活かす煮物・吸い物 うすくち・しろ 色沢を抑えて繊細に仕上がる
刺身(白身) 淡口・白醤油 素材の繊細さを損なわない
刺身(赤身)・照り焼き たまり・さいしこみ 濃厚なうま味と美しい照りが出る
卵かけごはん 濃口 or 淡口(好みで) 一体の濃厚さ、または卵を活かす
塩分を抑えたい 減塩(濃口を見る 食塩量9g以下・大さじ約1.2g
添加物を避けたい 本醸造・天然醸造 アミノ酸液などを加えない製法
甘い味わいが好み 混合方式の甘口 九州・中国四国の食文化
グルテンを避けたい 小麦不使用と明記のたまり すべてのたまりが無小麦ではない

種類で選ぶなら濃口淡口たまり再仕込みから、製法で選ぶなら本醸造混合醸造混合から絞り込めます。ラベルの種類・等級・製法・原料を読み解けるようになれば、あなたの食卓に本当に合う一本が、きっと見つかります。

FAQ

よくある質問

うすくちしょうゆはこいくちより塩分が低いのですか?

いいえ、逆です。うすくちは色や香りを抑えて素材を引き立てるため、食塩をこいくちより1割ほど多く使います。日本食品標準成分表でも食塩相当量はうすくち16.0g/100g、こいくち14.5g/100gで、うすくちの方が高めです。淡いのは色であって塩分ではありません。

本醸造でないと質が低いのですか?

そうとは限りません。本醸造はアミノ酸液などを加えず醸造した方式で、生産の約9割を占めます。一方、混合醸造や混合は製造段階でアミノ酸液を加える方式で、九州などの甘口醤油はこの方式を積極的に採用した食文化です。製法は品質の優劣ではなく味の設計思想の違いと捉えるのが正確です。

開栓後はどれくらいで使い切ればよいですか?

通常のボトルなら冷蔵庫で1か月ほどが目安です。醤油は空気に触れると酸化・褐変で色が濃くなり風味が落ちるためで、冷蔵すると室温よりおよそ4倍長持ちします。二重構造の密封ボトルは空気が入らない仕組みで、開栓後も常温で90〜120日(製品による)鮮度を保てます。

たまりと再仕込み(さいしこみ)はどう違うのですか?

たまりは大豆を主原料に少量の麦を加えて仕込む、中部地方中心の濃厚な醤油です。再仕込みは、いったん搾った醤油(生揚げ)を食塩水の代わりに使ってもう一度仕込む製法で、山口県柳井地方が発祥。どちらも色・味とも濃厚ですが、原料構成が大豆主体のたまりに対し、再仕込みは醤油で醤油を仕込む二度手間の製法という点が異なります。

「丸大豆」と書いてあると何が良いのですか?

丸大豆は大豆をそのまま使ったもので、油を取り除いた脱脂加工大豆と対になる言葉です。丸大豆は熟成中に油分がグリセリンとなって溶け込み、まろやかな風味と深いコクを生みます。国内の約8割は効率よく強いうま味を出せる脱脂加工大豆製で、丸大豆はまろやかさを狙った設計と考えるとよいでしょう。どちらが上ということではありません。

たまり醤油はグルテンフリーですか?

すべてがそうとは限りません。たまりは小麦をほとんど使わないためグルテンフリーの文脈で注目されますが、小麦を使うたまりも存在します。グルテンを避けたい方は「小麦不使用」と明記された製品を選んでください。

減塩しょうゆは味が落ちませんか?

製法上の工夫はされています。イオン交換膜で塩分だけ抜く脱塩法や、濃く造って加水する希釈法で、うま味や香りをできるだけ残しています。ただし普通の醤油に慣れていると物足りなく感じることもあり、その場合は濃厚な醤油を少量使う、だしで割るといった方法も有効です。食塩量が9g以下(100gあたり)などの基準を満たしたものだけが「減塩」と表示できます。

SOURCES

出典

本ガイドの記述は、以下の一次情報・公的資料などに基づいています。

  1. 01 しょうゆの地域特性 キッコーマン ・参照日
  2. 02 減塩しょうゆの製法(脱塩法・希釈法) キッコーマン ・参照日
  3. 03 令和5年国民健康・栄養調査 厚生労働省 ・参照日
  4. 04 日本人の食事摂取基準(2025年版)策定ポイント 厚生労働省 ・参照日
  5. 05 旨味を増強する酵素・グルタミナーゼ(日本醸造協会誌 100(1)) 吉宗一晃・森口充瞭 ・参照日
  6. 06 日本食品標準成分表(食品成分データベース・しょうゆ類) 文部科学省 ・参照日
  7. 07 JAS規格 日本醤油協会 ・参照日
  8. 08 しょうゆの種類 日本醤油協会 ・参照日
  9. 09 しょうゆの表示に関する公正競争規約及び施行規則 日本醤油協会 ・参照日
  10. 10 原料と製造法 日本醤油協会 ・参照日
  11. 11 原料 日本醤油協会(しょうゆ情報センター) ・参照日
  12. 12 個別品目ごとの表示ルール見直し分科会 説明資料(日本醤油協会) 消費者庁 ・参照日
  13. 13 栄養成分表示・食品表示基準 消費者庁 ・参照日
  14. 14 丸大豆と脱脂加工大豆 職人醤油 ・参照日
  15. 15 本醸造・混合・混合醸造/醤油の製法による3分類 職人醤油 ・参照日
  16. 16 醤油の火入れ 職人醤油 ・参照日
  17. 17 味噌・醤油の特有香気成分HEMFの酵母による生成(日本醸造協会誌 108(12)) 菅原悦子 ・参照日
  18. 18 醤油と味噌の特有香気成分はメイラード反応と酵母の活動によって生成される(におい・かおり環境学会誌 50(5)) 菅原悦子 ・参照日
  19. 19 しょうゆの日本農林規格(JAS 1703:2021) 農林水産省 ・参照日
  20. 20 しょうゆの日本農林規格(JAS) 農林水産省 ・参照日

GLOSSARY

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